2015年9月25日金曜日

フォルクスワーゲンの排ガス騒動

ことの発端は昨年5月「実測値が規制値を大幅に上回る」という外部からの報告だったようです。http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150923/k10010245371000.html

“アメリカ環境保護局は、去年5月、フォルクスワーゲンの走行中のディーゼル車から出た排ガスの数値が非常に高いという外部からの指摘を受けて、初めて問題を把握しました。”



ただこの時点ではまだ証拠が不十分であったことに加えて、フォルクスワーゲン側は設計された運転状況にないため基準値を上回る旨の回答をして逃れています。実際に排ガスは常に一定の割合で出るわけではなく、たとえばガソリン車であればエンジン始動直後は触媒の温度が十分に上昇していないことから炭化水素(HC)が大量に放出されることはあります。このような極端な条件だけを計測して「基準値に不適合」と主張することは理にかなっていません。

BMWのX3はおそらく「想定された運転状況ではないために瞬時的に多い量を排出している」状況であると思われます。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150925/k10010247051000.html
“NPOが行った路上での走行試験で、BMWのディーゼル車「X3」の排ガスから、ヨーロッパの基準値の11倍を超える窒素酸化物が検出されたと伝えました。”



ともかく条件が整わなければ公平な比較ができない(ズルし放題になる)ので、厳密に条件をそろえた上で計測するのですが、フォルクスワーゲンは、この検査条件に合致したときだけ排ガスの浄化を最大限に行う制御をしていたそうです。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150923/k10010245371000.html
“試験は車をローラーに乗せた状態で行われ、(中略)あらかじめ決められた内容に沿ってデータを測定します。”
“フォルクスワーゲンのソフトウェアは、速度やエンジンの回転数などから試験が行われていることを検知し、その際にだけ排出される窒素酸化物などを浄化する機能をフルに作動させていたということです。”

もともと運転条件(アクセル開度と車速)はオートマ車の変速制御のために主に利用され、より燃費が良くなるようにしたり、近年ではナビと組み合わせることでカーブ進入前にエンジンブレーキを強く効かせてフットブレーキの利用を減らすアシストにも採用されています。

http://www.nissan-global.com/JP/TECHNOLOGY/OVERVIEW/nshb.html
“ナビゲーションシステムでの道路情報をもとに、燃費を向上させる技術です。”

アクセル開度だけでなくステアリング操作と組み合わせたものもあり、CVTと連携して燃費向上はもちろんのこと、車両安定制御(メーカーによって呼び方は異なるが、VSC(トヨタなど)やVDC(日産など)もあります。
http://www.nissan-global.com/JP/TECHNOLOGY/OVERVIEW/active_engine_brake.html
“アクティブエンジンブレーキを備えたクルマは、スピードやステアリングを切る量、ブレーキの踏み方をチェックします。
そして、スピードやハンドルの切り方に合わせて自動でエンジンブレーキの効く量を調整します。(中略)ドライバーはストレスなく運転できます。”
http://www.nissan-global.com/JP/TECHNOLOGY/OVERVIEW/vdc.html
“ドライバーの運転操作やクルマの速度を検知して、ブレーキやエンジン出力の制御を自動的に行い(後略)”

このように車には無数のセンサーが取り付けられており、車のECUがセンサーの出力を統合し、既存のデータと比較したうえで必要に応じて各部分(CVTなりブレーキなりエンジン制御なり)への入力信号を最適化します。

このECUの制御はきわめて一般的なことですが、ではなぜ今回ここまで問題になっているかというと、今回のプログラムは速度の変化が事前に分かっている「米環境保護局が行う検査パターン」と合致した場合にエンジン周りの制御を極端に変更するという、かなり手の込んだ(言い換えると悪質な)制御だからと言えるでしょう。

http://kunisawa.net/car/car_latest-information/nox%E3%82%92%E5%87%BA%E3%81%99%E3%81%AE%E3%81%AFvw%E3%81%AE%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%82%BC%E3%83%AB%E3%81%A0%E3%81%91%E3%81%8B%EF%BC%9F/
“例えばガソリンエンジンも、モード燃費の走行パターンだとクリーン。しかしアクセル全開加速すると、大半のクルマで濃い濃度のHCやPMを排出してしまう。”

そうなんです、出ることはでるんです。たとえガソリンでも。

各メーカー間違いなくこの検査パターンで優秀な成績を収められるように制御を微調整(というか最適化)しているのは事実で、一般道路走行時にはこの理想から少しずつ条件が変わるためにより多くの有害物質を出すこともあるのです(たとえば燃費がカタログ値になかなか届かないことから推察できる)。各メーカー「条件次第では」有害物質の量が基準値の云倍になってしまう。
 http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/264450/092400010/?P=3
“このことは、多くのメーカーが「この程度なら許容されるだろう」と考えていることを示している。VWのエンジニアも恐らく、先に触れたような理由で、この程度の基準値からの逸脱は、許容範囲と考えていたのではないか。”

今回のは条件各種をifでまとめて、trueならば制御全面変更!っていうとても大胆なことやってきたから問題として取り上げられているんです。「この程度」だからじゃなくて、パターンを完全に変更してしまう。文字通りif ~ then, なデジタル制御。他メーカーは「検査条件」を目標に最適化するから一般道路でも同じ条件で走っているはずです(制御そのものは変更してない)。制御はアナログのようで、検査条件も一般道路の条件も同じ延長線上に存在する。
http://minkara.carview.co.jp/en/userid/571580/blog/36451516/
“ちゃんと書くなら「モードに特化した制御のため、実際の路上のドラビリが悪い」。”
今回問題になっているフォルクスワーゲンの制御プログラムをこのように表現することはできません。

もしかしたら今回の騒動の実際の理由はアメリカでVWがGMとかよりも売れてるからかもしれません。政治的な話で、アメリカはトヨタのプリウスの「急発進問題」やヒュンダイの「燃費水増し」で多額の制裁金を課してきています。売れてる外国勢をつぶしにかかってると考えると、今回が3番目のターゲットだったということに…?

技術的な観点は他の人に任せます。ディーゼルエンジンはPMとNOxの板挟みで、最近の規制はその両方を減らせというもの
http://blog.livedoor.jp/a27/archives/50715967.html

その対応も2通りあってPMで攻めるのとNOxで攻めるのがあります。
techon.nikkeibp.co.jp/article/HONSHI_LEAF/20050816/107657

さっきのブログ、技術の部分までちゃんと説明しています。
http://minkara.carview.co.jp/en/userid/571580/blog/36451516/
“NOxもりもり出して走っていいなら、当然ながらピストンが上死点近くでガッと燃えるような燃焼を取りたい放題”

これはもしかしたら

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150923/k10010245371000.html
“走行性と環境性能を両立させるために極端な対応”

この表現のことかもしれません。

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